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【企画参加】禁断の実/【第0回】短編小説の集いに参加してみたよ!

企画参加

りんごりんごりんご。
昨日寝る前から脳内がりんごだらけながちゃまにあですどーもこんにちは。


【第0回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

小説を書こうというこの企画。
面白そうなので参加させていただくことにしました。

小説書いたのなんて、友達同士で回ってきたリレー小説を1回分書いたことあるくらいかなあ。
ということで、「初心者枠」で良いでしょうか?(笑)

当時は「創竜伝」(田中芳樹著)好きだったので、若干堅い文体でしたね。
もうちょい前ならスレイヤーズっぽくなってたんだろうなあ(影響されやすい人)。

まあとにかく、完成したので読んでやってください。

禁断の実

彼は決してりんごを食べない。
彼女はそのことがとても不思議だった。

隣の席のうるさい男の子は、ひじきと大豆の煮物が大好き。
後ろの色白な女の子は、辛いものを食べると泣きそうになる。
毎日学校に来て給食を一緒に食べていれば、他人の食についての情報など自然と入って来るものだ。

隣の隣の列の、一つ後ろの席。
その席の彼はいつもりんごを残した。
それも徹底的に、である。
小さく刻まれたものを避けるのは勿論、カレーなどにすりおろしたものが入っていれば、一切手を付けない。
毎日給食のメニューを見て、材料を確認するのが彼の日課だ。
当然午後からだって授業はある。食べずにお腹が空くのは辛いはずだ。にもかかわらずここまでするなんて、何故なんだろう。
彼が何かを残す度、「ちゃんと食べないと立派な大人になれない」と、普段から口を酸っぱくして言う母の姿が目に浮かんだ。
あまりに気になったので、アレルギーでもあるのかと一度彼に聞いたことがある。アレルギーなら、りんごの入っていないメニューを作ってもらえる。毎日メニューを確認する煩わしさからも解放されるはずだ。
彼女の問いに、彼は頭を振ってこう言った。
「アレルギーってわけじゃないんだけどさ、食べちゃダメなんだよね」
ダメ?ダメって何だ?嫌いなだけではないの?
淡々と答えた彼のことが、それ以来何となく気になっている。


そんな11歳の夏休み。
彼女は初めて学校以外での場所で彼と出会った。
祭囃子の中、ヨーヨーを持つ彼とりんご飴を持つ彼女が向かい合う。
不思議とあたりに人気はない。
まるで何かを予期するかのように。


「あ…えっと…これ、食べる?りんご飴。オマケでもう一つくれた…」
あまりにも不意な出会いに、彼女から流れた言葉は、到底彼女らしからぬものだった。
彼がりんご飴を食べるわけがないじゃないか!何て気の利かない台詞なんだろう!
慌てて次の言葉を探している彼女に、彼はいつものように淡々と答えた。
「もらうよ、りんご飴。」


彼は無造作にりんご飴を口にした。
彼女はスローモーションでその光景を見た。


彼の口に広がるは、甘酸っぱいりんごの味。
それは、彼にとっては決して口にしてはならない禁断の味。
彼の姿は変わり始める。


彼は人間ではない。
遥か昔に人間に憧れた何か、である。
アダムとイブ同様禁断の実を食べ、知恵の代償として楽園を追放された。
ただ、彼がアダムとイブと大きく違ったことが、一つだけある。
それは彼が孤独だったことだ。
アダムにはイブが、イブにはアダムがいた。
だか彼は孤独だ。追放されたこの身を憐れみ、慰めてくれる者はない。
故に彼は求める。自分だけのイブを。


徐々に、だが確実に。
禁断の実を口にした彼の姿は異形へと変わる。


彼は彼女を見た。
彼女も彼を見た。


りんごさえ食べなければ人間の世界にうまく溶け込んでいられる。
彼はそのことを重々承知していた。
でもそれでは満たされないのだ。偽物のこの姿で認められても、虚しいだけなのだ。
彼はもう、仮初めの安らぎでは満足できなくなっていた。

彼女こそが探していたイブかもしれない。
そのことに気付いた時、彼はどうしようもなく正体を見せたい衝動に駆られた。
だから彼は、今ここでりんごを食べている。


彼女は黙っている。
きっと怖くて声も出ないのだろうと、彼は想像し、後悔した。

またやり直しだ。
誰かの下に生まれ、一からやり直し。
彼女も、僕のイブではなかった。
もう二度と彼女に会うことはないだろう。


うなだれた彼が次に顔を上げた時、彼女はもういなかった。
だが、彼の瞳はある一点を捉えて離さない。
信じられない光景が目の前にあった。


彼女だったものが、そこにいた。
神々しい光を放つ、何かが。

「…やっぱりあなたも人間じゃなかったのね?」
言って彼女は不敵に笑った。


彼女は人間として生きることに満足していた。
何度も人としての生命を全うしてきたが、退屈な人生など一つもない。
平坦だと感じるのは、人間の感性があまりにも鈍いからである。
長い時を生きる彼女は、数ある分岐点を選択して得られた結果である「今」を迎えること自体が途方もない奇跡だということを、充分すぎるほどに理解している。
だからこそ、人間として生きることは彼女にとってとても喜ばしい経験だった。
何度経験しても未知のものに触れられる。
そんな楽しさを持った生活に、不満などあろうはずもない。

だが彼との出会いは、そんな満足感を粉々に砕くくらいに刺激的だった。
自分と同じように長く生きるものが、今、目の前にいる。
一人で経験したことを、二人で共有したらどうなる?
彼女は長いときを過ごしたが、そんな想像をしたのは初めてだった。


長い時の果ての邂逅。
禁断の実が二人を新たな楽園へと導く。
祭囃子と花火の音が、二人の門出を告げていた。